この記事では
- 台湾の仏教式のお葬式
- お葬式までの流れ
- 参列者の服装やマナー、注意すべきこと
- 日本と大きく異なるところ など
長らく体調を崩していた90歳の阿嬷(義父方のおばあちゃん)が生涯を終えまして、初めて台湾でのお葬式に遺族として参列することになりました。
台湾のお葬式までの儀式は長いです。とにかく長い。
予めどんな流れで行われるかがわからないと、終わりが見えなくて辛いものです。
私が参列した当時はネット上にも情報が少なく、全貌がつかめずかなり疲弊してしまいました。
そこで今後台湾のお葬式に参列予定の方の参考になればと、流れやマナーをまとめてみました。
※この記事にまとめたのは仏教式のほんの一例です。台湾のお葬式は家庭や信仰によって多種多様です。
(ちなみにうちはお寺通いはしていないものの、初一・十五の拜拜はしっかりやるタイプです。周りの台湾人の話を聞く限りでは、うちはかなり伝統的なやり方だそう。)
秋頃に義母が亡くなり、台北で葬儀を行いました。阿嬷の時(台湾中部の田舎)とは異なることが多々あり、加筆修正しました。加筆箇所は灰色にしています。
台湾のお葬式 日程や流れ
日本のお葬式は長くとも一週間以内には終わるかと思いますが、台湾ではすぐに執り行われるわけではありません。
日取りやら何やらを考慮した結果、告別式まで一か月なんてこともあります。
阿嬤の告別式までは12日もありました。
その間何をしていたかというと、ひたすらお経を読んでいました。
日本だとお坊さんが読むお経を遺族が聞いている形ですが、台湾では経本片手に遺族も一緒に読みます。
お坊さんがいないときは遺族が自主的に読むよ。
台北は葬儀場不足らしく、3週間以上も待ちました。その間ご遺体は葬儀場の霊安室に。私達遺族は「會館」と呼ばれる待機所(葬儀場のすぐそば)で毎日お参りしました。「媽媽に付き添える最後の機会だから」と毎日8ー17時の間ずっといました。
毎日葬儀場のそばにいると、様々な信仰・宗派のお葬式が目に入ります。中には何かを叫びながら輪になってぐるぐる走り回っている集団もいました。それから、黑道(ヤクザ)の告別式の日には一般人の車が駐車場に入れなくなったりと毎日刺激的でした(?)
台湾のお葬式 1日目
阿弥陀仏を唱える
ご臨終の連絡を受け、おばあちゃんの家に駆けつけました。
するとリビングには既にご遺体安置場所が設けられていました。
出典:明德生命禮儀公司
この日は横たわる阿嬤に向かって、実に5時間半も「阿弥陀仏」だけをひたすら繰り返しました。
一日目にして喉がやられました。
お経は何日も続くから適度に口パクも挟んで喉を休めたほうがいいかも・・・
義母を看取った後から、病院地下の霊安室で「阿弥陀仏」を8時間唱えました。
義父は義母が息を引き取る前から唱え始めており、「まだ亡くなっていないのに気が早くない?!?!」と衝撃でしたが、台湾の仏教では普通のことのようです。
台北動物園で闘病中だったパンダへの応援メッセージにも「南無阿彌陀佛🐼」とあり、それを見た私の父が衝撃を受けていました。
お着替え
お経を読み終えたら納棺師さん二名がカーテンの中で生前着ていた私服に着替えさせます。
日本のようにオープンにササッと着替えさせるのかと思いきやカーテンが閉められ、何やらビニールがシャカシャカ擦れる音がしきりに聞こえてきました。
出てきた納棺師さんの手がちょっと生々しい汚れ方をしていたので、あまり見ないほうがいいのかな?と思いました。
台北の葬儀屋さん(台湾大手の「龍嚴」)で、出棺前日に「スパ」(湯灌)をしてもらいました。日本から来たサービスだとのことですが、日本ではご遺体にオイルマッサージをするのは見たことないなぁ。スパが終わるとチャイナドレスのようなきらびやかな死装束に着替えさせてもらっていました。
台湾接客最高峰の鼎泰豊を超えてきた
巨大冷蔵庫に安置
着替え終わると巨大な横型冷蔵庫が登場し、そこにご遺体を安置します。横にラジカセを置いてお経を流し続けます。
台湾のお葬式 2日目
お経を唱える
出典:明德生命禮儀公司
朝7:30からガレージの祭壇で2時間お経を読みました。リビングのご遺体安置場所にいる魂をガレージの祭壇に移すのだそうです。
前日には何も伝えられておらず、「10分後からお経読むぞ!」といきなり起こされました。
大事なスケジュールを事前に周知しておかないのは台湾団体行動あるある
台湾のお葬式 3〜11日目
毎日お経を唱える
毎日2時間くらいお経を読みます。遺族だけではなく、お寺のボランティアが一緒に読んでくれたりします。
また、22:00まで祭壇の前に誰かしらがいないといけないそうです。
告別式会場が完成
そうこうしているうちに家の前の道路片側一車線をふさぐ形で豪華な会場ができていました。
出典:明德生命禮儀公司
きれいな池?つきです。ここは参列者が最後にお清めするために使います。
出典:誼脩生命禮儀公司
台湾のお葬式 12日目
一日中お経を読む
お坊さん5人態勢+お寺の信徒さん+遺族の総勢40人でお経です。小休憩を挟みつつ 朝8時半から夜6時まで読み続けました。
厳かな雰囲気で進行するはずが
- お坊さんお眠につき、お鈴チーン!をかすりまくる
- 飲むヨーグルトを差し入れする
- その結果お坊さんがお腹を壊してしまう
- お経中もスマホの通知音「LINE🎶」が鳴り響く
- ゲップも通常運転で放たれる
などなど、私的にはとんだハプニングがたくさんありましたが、台湾人達は気にしていないようでした。
ゆるい。
ミニ楽団による最後の音楽会
夜は生前好きだった曲を聞かせる会をしました。
おばあちゃんは日本統治時代生まれで、6年生まで日本語教育を受けていたこともあり、好んで聞いていたのも日本の曲ばかり。
ミニ楽団(二胡、キーボード、笛、琵琶)にお願いして美空ひばり、五木ひろし、谷村新司、夏川りみなどの曲を演奏してもらいました。
納棺
まずは軽トラの荷台に載っているお棺に遺族一同土下座。(石ころが膝にささって痛い)
「南無阿弥陀仏」を唱えながらお棺を部屋に入れ、巨大冷蔵庫からご遺体を出して納棺します。お化粧もここで施します。
それからお棺の周りをぐるっと一周しながらお別れの言葉をかけました。おばあちゃんの姿が見られるのはこれで最後ということでした。
台湾のお葬式 13日目
告別式
お経を読みまくる長い日々を経てやっと告別式です。遠い親戚や知人はここから参加となります。
ここまでの12日間でかなりのカルチャーショックがありましたが、ここで最大のびっくり。
告別式はなんと、朝6時から・・・!
朝早くにも関わらずたくさんの方が参列していました。
ちょうど選挙直前だったので、候補者が票集めにお線香をあげに来ていました。他にも現議員や消防署からなど、生前全く面識がなかった人も参列していました。
通りすがりの人でも入ろうと思えば入れそう。
親族は「孝服」というガウンのようなものをまといます。
うちは黒でしたが、白い考服もあります。
昔の中国では白が基本だったらしく、外省人は白を着ることが多いとか。
ですが、基本的には白黒どちらでもいいそうなので、白を着ているから外省人というわけではありません。
出典:尚荷禮儀公司
告別式でもいつものようにお経を唱えるのですが、ちょっと豪華にBGM付です。
ミニ楽団がお経に合わせて壮大な感じのBGMを奏でてくれます。
朝6時から公道で爆音お経
朝早くに集合し、告別式前の儀式(魂を待機所から告別式会場に移す)を終えてぼーっとしていたら、気づかぬうちに葬儀が始まっていました。
喪主とその家族は2時間くらい立ちっぱなしです。膝をついてのハードなお参りもありました。それと、結婚式のように感謝の手紙も読み上げました。
予想外だったのは、うちの父(全く中国語がわからない)が参列者代表に指名され、全員の前でお参りをしなくてはならない状況に追い込まれてしまったことです。外国人だろうが何だろうが、長男の嫁家族 is No.1で、先頭に立たないといけないとのこと。これには私も非常に焦りました。台湾のお参りなんて経験したことのない父をサポートすることもできず、緊張のあまり心拍数が爆上がりし、AppleWatchに心配されました。
火葬、骨上げ
火葬場は予約制ではなく、到着順。(南投の場合)
なので式が終わったら光の速さでバスに乗り込み、火葬場へ向かいました。
朝6時に式を開始したのは、火葬場の混雑時間を避けるためだったというわけ!
土葬が主流だった台湾ですが、近年は墓地として確保できる土地が少なくなり、火葬が増えているそうです。
台湾家族にとっても初めての火葬で、骨上げも初体験。
排骨酥を揚げているみたいだ〜あはは!
と言っていました。
というのも、台湾ではお箸と網を使って骨上げするので、その様子が揚げ物を調理する様子に似ていると感じたみたいです。
いとこ達はいつも不謹慎なことばかり言ってる(すき)
台北の火葬場も到着順で、バスを急いで降りたその足で棺を火の中(!)に押し込むのを見届けました。あんなに時間をかけて弔ってきたのに、最後はなんてあっさりなんだろう。
台湾の骨壷はバリエーションが豊富で、
お清め
火葬場から自宅に帰ったらお清めをします。
焼いたお札やら葉っぱやらが入った洗面器の水を軽く身体にかけて終了です。
出典:尚荷禮儀公司
台湾のお葬式での服装、マナーやしきたり、注意すべきこと
遺族の服装は暗い色で動きやすいもの
まず、親しい親戚は告別式までの数日間&当日に何度も膝をつくので動きやすい服装がふさわしいと思います。(膝をついたり立ったり、運動さながらでした)
必ずしも黒でなくてもいいのですが、暗い色で柄などが入っていないものがいいそうです。
私はユニクロで調達したダークトーンのロンT+ジーンズ+白スニーカーで過ごしたよ。
参列者も色はダークトーンではあるものの、いつもと変わらぬ感じ(Tシャツにジーンズ)でした。日本の喪服のような格好の人はいませんでした。いたって普段着。
追記
この記事を書いてから何度か参列しましたが、暗い色のワンピースに黒ストッキングの人もちらほらいました。
補足
- お祝いの色とされる赤が入っている服は避けた方が無難
- ただし逝去者が80歳以上なら長寿のお祝いの印として赤を身につける場合もあるそうなので要確認
- 靴は白が好ましいと言われる場合もある
台湾家族の希望で、私の家族には日本の喪服で参列してもらいました。周囲が普段着の中、フォーマルすぎて大変に浮いていました。台湾家族は「海外からも参列してくれる親戚がいることを見せられた」と喜んでいたので、まぁよかったかなと。
男性は髭を剃ってはいけない
お葬式までの期間は男女ともに憔悴している様子でいることがいいのだそうです。
男性が髭を剃らないのは「日々のルーティーンを忘れるくらい憔悴している」という意味があるそうです。
昔は髪も洗ってはいけなかったらしいよ・・・!
家じゅうの電気をつけておく
ご遺体はすでに家に安置されていても、魂は亡くなった場所に留まっているかもしれません。なので亡くなった場所(病院など)から家まで灯りを目印にしてちゃんと帰って来られるように、全ての部屋の電気をつけて明るくしておくそうです。
寝るときも消灯せず
暗くないと寝られない人はアイマスク必須です。
台湾のお葬式では意外と体力を使うので、しっかり休息をとりましょう!
素食(精進料理)を食べる
肉や魚は食べられません。
台湾には普段から素食の人が少なからずおり、素食を提供するお店を探すのは難しくありません。
コンビニにも素食カップラーメンがあります。
味噌汁を作ろうとしたら出汁にかつお節が入っていてNGだった・・・あぶないあぶない。
昨今のビーガンブーム(?)で、食事の選択肢がかなり多くなりました。それから、一般のレストランでも素食を希望すれば、できる範囲で対応してくれることもありました。
日本と大きく異なる台湾のお葬式
イメージしていたのと違ったところ、びっくりしたことなど。
黄色(金色)が基調
日本だと白黒ですし、なんとなく台湾もそうなのかなと思っていたら黄色が基調になっていました。
先述の部分で紹介した写真も黄色が多かったかと思います。
これは厳密にいうと黄色ではなく金色だそうです。
なぜ金かというと、冥土でもお金に困らないようにだそうです。
お経が歌のよう
日本のお経とは違って独特の抑揚と伸ばしがあり、歌に近い感じがします。
お坊さん達がボーカルfeat.木魚&お鈴のバンドに見えてくるよ
この動画の2:00あたりから歌っぽくなっていきます。途中からかなりスピードアップします。
たまに手元の経本に載っていない言葉を読んだり、「さぽさぽもしもし」のような何語かわからない言葉も入ってくるので結構忙しいです。
お経空耳アワー All money go my home?
お経を読んでいると何度か手元の経本に無い言葉を読むところがあります。そういう時は空耳でお坊さんに合わせましょう。
その中で、どうしても「Oh my baby home~」にしか聞こえないところがあり、とても気になってしまいました。
「Oh my baby home~」ってところあるよね?!
違うよ、あれは「All money go my home~」だよ。台湾人はお金好きだからな!はっはっは!
正しくは「嗡瑪尼唄美吽」(チベット語)だそうです。こちらの00:33あたりからです。
胡蝶蘭を贈る
胡蝶蘭といえばお祝いごとのイメージがありますが、台湾では葬儀の際に胡蝶蘭を贈るみたいです。(日本でも胡蝶蘭を贈るのは問題ないそう。)
会場いっぱいに贈られましたが、色は紫と白で見事に揃っていました。
そんな中一つだけ黄色の胡蝶蘭が。
「あれは誰からなんだ?ああ、日本人か(察し」と一際目を引いていたこれは私の両親からのです。
私が手配したのよ!日本人からだから黄色にしてみたの
ありがたいけど、空気読めない日本人みたいになっちゃった・・・
香典は紅包で(赤いお祝い用の封筒)
一般的に香典は白包(白い香典用の封筒)で渡します。ですが、亡くなった方が80歳以上の場合は長寿のお祝いとみなすので紅包で渡すそうです。
どちらもコンビニで入手可能です。
お葬式に参列してはいけない人
亡くなった日にちと相性が悪い干支というのがあるらしく、該当する人はお葬式に参列できません。
いとこが該当してしまったので、お葬式前夜から姿を消していました。
この慣習を無視して参列してしまうと、逝去者にも参列者にも悪いことが起こるそうです。
式会場の入口の看板に該当の干支が書いてあるので確認しましょう。
ポエが揃うまで帰れま10
出典:櫻桃小妞の世界
火葬の後にお寺に寄って、ボァーポエ(赤い三日月型の木片を投げる)をします。
裏表セットが出るまで続けます。
出なかったらどうするの?
出るまでやるんだよ・・・
写真は撮ってもいい?
お葬式で写真を撮るのはNGだと思っていたので、私は控えました。(なのでこの記事では葬儀屋さんの画像をたくさんお借りしています)
台湾家族的にも写真撮影は良くない感覚のようで、基本的には撮っていませんでした。お花だけは送り主を把握するために撮っていました。
他の親戚のお葬式では喪主が泣きながらバシャバシャ撮影していて、参列者もそれを見て「あ、いいんだ」という感じで撮影していました。
事情があって参列できなかった人のために動画を撮っている人もいました。
撮影の可否は空気を読もう
お葬式が終わった途端に断捨離
火葬が終わり、家に戻ってきたところで一息つくのかと思いきや、いきなり断捨離が始まりました。
生前気に入っていたものや価値の高いもの以外は潔く捨てていきます。
遺品整理のスピード感半端ない
なかなかお墓に入れない
てっきり火葬したその足で埋葬するのかと思いきや、お寺にしばらく置いておくそうです。
まずはお坊さんに毎日お参りしてもらってから遺骨をお墓に移すとか。
遺骨を移す日は占いで決めます。
最近は土地不足や費用の関係で、お墓に移さずにお寺の供養塔で管理してもらうことも増えているそうです。
Twitterからのコメントまとめ
この記事をTwitterに公開したところたくさんのコメントをいただきましたので、以下で紹介させていただきます。
台湾のお葬式の日程について
台湾のお葬式で香典はいくら包む?
台湾のお葬式といえば泣き女?
中華圏のお葬式ではゲップは当たり前?
お経にコーラってなかなか斬新な組み合わせ
台湾のお葬式を終えて・・・
阿嬤が亡くなってから既に半年以上経っていますが、親族が交代で毎週のように片道3時間かけて田舎のお寺にお参りに行っています。(追記:一周忌でお参り通いは終了しました)
お葬式までの期間が長いのもそうですが、弔いにかなり時間をかけるのが台湾のやり方なのかなと思いました。
お葬式までの期間は集団行動が続くので体調管理にはいつも以上に気をつけたほうがいいと思います。うちは一人が風邪を引いたのをきっかけに赤ちゃんから大人まで集団感染してしまいました・・・。長い儀式からの疲労もありますし、休める時間はしっかり休みましょう。
お葬式の話題はタブーかなと思ったのですが、知らないと困ることもたくさんあるので記事にしてみました。
誰かのお役に立てたらと思います。
こんな形で役立つなんて悲しいけど、記事にしておいてよかった…
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